「研磨剤入り歯磨き粉は歯によくない」って、もしかして本当に信じてる?

「研磨剤入り歯磨き粉を使うとよくないって聞いたことあるんですけど、使わないほうがいいですか?」

どら猫

この疑問は、患者さんから聞かれることが多い質問の1つなんだよね。
基本的には大丈夫ですよ~って言うんだけど本気で説明すると長くなっちゃうんだよね…。ブログならちゃんと説明できるし、書いておこう!と思いました。

「研磨剤入り歯磨き粉は歯によくない」
「研磨剤入り歯磨き粉を使うと歯が削れる」
こんな話しを一度は聞いたことありませんか??

今回はこの都市伝説が本当なのかを解説していきたいと思います。

目次

研磨剤の目的

まず、研磨剤はなんのために配合されているのか?

メインの目的は

歯の表面に付着した汚れや着色を落としやすくするため

そして、それ以外にも

歯を傷つけずに清潔にすることができる。

歯の表面を滑沢にして新たな汚れや着色、プラークの再付着を抑制しやすくする。

参考文献
ウィルキンス 歯科衛生士の臨床 原著第11版
②歯磨剤の研磨性試験における重要な因子の検討/Manly RS

どら猫

研磨剤が入ってても歯を傷つけずに清潔にできる!都市伝説を信じてる人からすると、意外だったんじゃないでしょうか?ちゃーんと、論文や衛生士さんの教科書にもそのように書かれています。

現在では「研磨剤」ではなく「清掃剤」に表記が変わっている

「研磨剤入り歯磨き粉はよくない」という噂が立ち始めてから、世の中の「研磨剤」と表記された歯磨き粉が売れなくなってしまったのは事実のようです。

そして「研磨剤」というワードがイメージ的にも悪いという理由から今では歯磨き粉の成分表に書かれている「研磨剤」が「清掃剤」に変わってしまっている歯磨き粉がほとんどです。

研磨剤=清掃剤の代表成分は以下の通り

リン酸水素カルシウム
水酸化アルミニウム
無水ケイ酸A
無水ケイ酸
炭酸カルシウム

などなど

どら猫

実際に自分が使っている歯磨き粉の後ろの成分表を見てみましょう!

研磨剤という表記が清掃剤に変わったことによって、「私は研磨剤入り歯磨き粉を使ってない!」と言う人も世の中にはいるんですけど、実は入ってました…wなんてこともよくあるんです。

論文からみる研磨剤入り歯磨き粉のメリット

市販品の歯磨き粉のほとんどが基本的に研磨剤は配合されています。研磨剤が配合されていない歯磨き粉を見つけるのが難しいくらいです。

Plaque growth and removal with daily toothbrushing

歯磨き粉を使わないブラッシングと歯磨き粉を使ったブラッシングでは一定時間後のプラークの再形成が27%も違うという研究結果がでています。

引用論文:「Plaque growth and removal with daily toothbrushing

この研究においても恐らく研磨剤は入っているでしょう。研磨剤が使われていなかったらそう書かれているでしょうし、一般的な歯磨き粉なら研磨剤入りの歯磨き粉が普通でしょうしね

研磨剤は本当に歯を削ってしまう危険なものなのか?

歯磨き粉を作っているメーカーさんは決して適当に研磨剤を入れているわけではありません。

厳しい基準をクリアした安全性の高い歯磨き粉が市販品として販売されています。

じゃあ、その基準は誰が決めているのでしょうか?

歯磨き粉の安全性基準はスイスにある「国際標準化機構」(通称ISO規格)によって1995年から国際基準が設けられています。

その数ある基準の中には歯の摩耗試験であるRDA法に関する項目があり、それによって安全に使用できる歯磨き粉の研磨力の基準としてRDA250以下と定められています。

補足
RDA値(Relative Dentin Abrasion)(日本語でいうと「相対的象牙質摩耗値」)は、歯磨き粉が象牙質をどれだけ研磨するかを数値で表したものです。
RDA値が低いほど歯に優しく、高いほど研磨力が強いことを意味します。この値は、アメリカ歯科医師会(ADA)などで使用されており、歯磨き粉の安全性と有効性を評価する上で重要な指標となります。

・低いRDA値(例:70以下)は、知覚過敏の人や歯や歯茎がデリケートな人に向いているとされています。

・高いRDA値(例:100以上)は、ステイン(着色汚れ)を除去する効果が高いとされています。

・一般的に、市販されている歯磨き粉のRDA値は、世界標準のISO規格では250以下、日本では150以下に設定されていることが多いです。

・RDA値は、あくまで研磨力の指標であり、歯の傷の深さやダメージを表すものではありません。
歯磨き粉の選択だけでなく、正しいブラッシング方法(適切な力加減、歯ブラシの選択など)も重要です。

しかし、RDA値はあくまで象牙質という歯の内側の構成要素なのでエナメル質や歯肉に覆われていて、本来であれば露出することはありません。

しかし、加齢や歯周病、過度な咬合力、習癖、不適切なブラッシング、など様々な原因により歯肉が退縮することで露出してしまいます。

その結果、みなさんがよく知る知覚過敏などの様々なトラブルを引き起こしてしまうのです。

ここで1つ疑問が浮かんできます。

基本的に歯磨きをするうえで健康な人は象牙質が露出していることはありません。

そして歯の外側はエナメル質という人体でもっとも硬い組織で覆われています。つまり歯みがきというのは歯のエナメル質を磨いていると言ってもいいでしょう。

なのになぜ、わざわざ歯の内側の象牙質に対する評価基準が設けられているのでしょうか?

それはエネメル質と象牙質の硬さの違いにあります。

硬さの違いから歯磨きに伴う歯の摩耗リスクはエナメル質よりも象牙質の方が高く、象牙質はエナメル質よりも摩耗リスクが数倍高いとされています。そのためISOは歯磨き粉の研磨力の安全性を評価する上でエナメル質よりも摩耗しやすい象牙質を対象とすることで、健康な人、象牙質が露出してしまっている人も含めたすべての人が安心して使用できるように安全基準を設定しているわけです。

なお、国際標準化機構ではRDA250以下と定められていますが、日本ではRDA250以下の低い数値が設けられています。日本のほぼ全ての歯磨き粉はRDA150以下とさらに厳しく設定されています。

どら猫

つまり、日本の歯磨き粉を使用しているみなさんは世界的にみても歯に優しい歯磨き粉を知らず知らずのうちに使用しているということになります。

論文からみる摩耗テスト

自分たちが世界的にみても歯に優しい歯磨き粉を使っているのは分かったけど、研磨剤入り歯磨き粉が本当に歯を削っていないかわからないよ。

どら猫

研磨剤入り歯磨き粉が歯を削らないって実験をした論文がちゃーんとあるんだよ。私よりもとてもえらくて頭のいい人たちがした実験さ!これにまさるエビデンスはないね。

RDA85の歯磨き粉とRDA189の歯磨き粉を使用して象牙質の研磨性を比較した研究

この実験はRDA85の歯磨き粉とRDA189の歯磨き粉を使用して象牙質の研磨性を比較・検討しました。

その結果は、象牙質の摩耗量はRDA189の歯磨き粉のほうが大きかったものの、一生涯もの間ずっとRDA189の歯磨き粉を使用したとしても、想定される象牙質の摩耗量は微々たるものであり問題とはならない。と論述されています。

RDA189の歯磨き粉を100年間使用したとしても972μmほどしか摩耗しないと論じられています。

引用:「歯磨き粉による象牙質の摩耗を研究するための方法の開発。2つの製品の比較

どら猫

RDA189の歯磨き粉でそのような結果なら、RDA150以下の歯磨き粉が主流の日本では問題になりませんよね?

一部例外の歯磨き粉も紹介

市販品のほとんどはRDA150以下の歯磨き粉がほとんどだと言いましたが、一部例外の商品もあります。

それは「ホワイトニング効果」を謳う歯磨き粉です。

どら猫

つまり虫歯予防とかよりも着色除去に特化した歯磨き粉ですね!

あたりまえですが、研磨力の強い歯磨き粉を使えば、なかなか取れないような着色も普通の歯磨き粉に比べれば効率的に除去することが可能です。しかし、あまりにも研磨力の強い歯磨き粉だとかえって歯の本来の艶がなくなってしまったり、逆に凹凸ができてしまい、着色しやすくなる場合もあります。実際、みなさんが定期的に歯医者さんに言ってクリーニングしてもらう時に使用する歯磨き粉は粗い研磨力、中くらいの研磨力、低研磨力の歯磨き粉をクリーニングのスペシャリストである衛生士さんが使い分けて使用しています。そういった歯磨き粉は日常的に使用するには向いていません。しかし、市販品の歯磨き粉にはRDAなんて書いていません。なので、ホワイトニング効果の歯磨き粉を使用する場合は週末だけにする、着色しやすいものを食べた時、着色が気になった時など、限定的な使用をおすすめします。

論文からみる日常的な歯磨きで歯が削れる一番の要因とは

ご紹介する論文は歯ブラシの種類と硬さ、研磨剤の種類と濃度などが象牙質の研磨性に与える影響を比較・検討した研究です。

この研究から歯(象牙質)にもっとも影響を与える要因は歯ブラシの硬さということがわかっています。

引用論文:Importance of factorial designs in testing abrasion by dentifrices(歯磨き剤による摩耗試験における要因計画の重要性)

その後も歯の摩耗原因を解明するためにいろいろな研究がされてきました。その結果

歯が削れてします原因は、歯磨き粉に配合されている研磨剤よりも

・ブラッシング圧
・歯ブラシの硬さ(歯ブラシの種類)
・歯ブラシの動かし方

これらの要因が、歯が削れる影響が大きいということがわかっています。

なぜ研磨剤入りの歯磨き粉はよくないという話しがでてきたのか?

どら猫

困ったことに…一部の歯科医師や歯科衛生士さんも研磨剤が入っていない歯磨き粉を使用したほうがいいと言う人もいたりします。

そもそも研磨剤フリーの歯磨き粉をおすすめする人は特殊な口腔環境を持つ特定の人だけです。

あとは、自社製品をよく見せるために「研磨剤配合なし」などを謳うメーカーなどはよく見かけます。

そして歯磨き粉の中には低研磨性の歯磨き粉もありますが、世界的見ても低研磨性が主流の日本において、さらに低研磨のものをわざわざ選ぶ理由はあまりないと思われます。論文からもわかる通り微々たる差しかありません。

まとめ

研磨剤には汚れを落としやすくするほか
歯を傷つけずに清潔にすることができる。
歯の表面を滑沢にして新たな汚れや着色、プラークの再付着を抑制しやすくする。
など、予防的メリットもある。

一生涯もの間ずっとRDA189の歯磨き粉を使用したとしても、想定される象牙質の摩耗量は微々たるものであり問題とはならない。そのため、日本の歯磨き粉はRDA150以下が主流のため歯が削れるといった心配はほとんどない。

どら猫

歯磨きで歯を削らないようにするためにみなさんがやるべきことは
「研磨剤入りの歯磨き粉を使わない」ではなく
「適切な歯ブラシの硬さを選択する」
「力をいれないブラッシングをする」
「正しい歯磨きの動かし方をする」ことです。

ではまた次の記事で

どら猫

歯ぁ磨けよ~

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